この記事は、厚生労働省・労働局が公開している資料をもとに制度の考え方を紹介するものであり、法令の全文や個別の賃金計算の方法を示すものではありません。自院の手当額が基準を満たすかどうかは、必ず顧問社会保険労務士や所轄の労働基準監督署にご確認ください。
「宿直手当はいくらにすればよいのか」「最低額の決まりはあるのか」。当直表を組む担当者や事務部門からよく出る疑問です。結論から言うと、宿日直許可を受けるためには、宿直・日直の手当について「1人1日平均額の3分の1以上」という基準があります。この基準が何を指すのかを、厚生労働省・労働局の資料に沿って整理します。
基準:宿日直1回あたり「1人1日平均額の3分の1以上」
宿日直許可の一般的な基準(昭和22年9月13日発基17号)では、宿日直手当について、 1回あたりの手当の最低額が次のように示されています。
当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上であること。(東京労働局「医療機関における宿日直の許可基準について」より)
医師・看護師等の宿日直許可基準(令和元年7月1日基発0701第8号)でも、医師等向けの細目に加えて「一般の宿日直の許可の際の条件を満たしていること」が求められており、この手当の基準も当てはまります。
ポイント1:これは「許可を受けるための条件」
この基準は、宿日直を労働時間の規制の対象外として扱う許可を受けるための条件のひとつです。宿日直許可を受けていない当直は、そもそも通常の労働時間として扱われ、時間外労働であれば割増賃金の対象になります(詳しくはこちらの記事)。「宿直手当を3分の1以上払っていれば、許可が無くても問題ない」という意味ではない点に注意が必要です。
ポイント2:「同種の労働者」の「1人1日平均額」が基準になる
基準になるのは、その事業場で宿直・日直に就く予定の「同種の労働者」に支払われている賃金の、 1人1日あたりの平均額です。宿日直に入るのが医師であれば医師の賃金が、看護職員であれば看護職員の賃金が基準になると考えられます。
仮に、宿直に入る同種の医師の賃金の1人1日平均額が3万円だとすると、宿直1回あたりの手当は 1万円以上である必要がある、という関係になります。
厚生労働省のFAQによれば、許可の申請では「対象労働者全員の給与一覧表(労働基準法第37条の割増賃金計算の基礎となる賃金)」を提出します。実際にどの賃金をもとに平均額を出すかは、申請の際に労働基準監督署と確認しながら進めるのが確実です。
ポイント3:非常勤の医師だけで回している場合
宿直をすべて非常勤の医師で対応している場合は、割増賃金の計算の基礎となる賃金がないため、給与一覧表の提出は不要とされています。そのうえで手当額については、次のような事例が紹介されています。
非常勤の医師のみで宿日直対応をする場合の手当額の算定は、賃金構造基本統計調査報告の医師の賃金から算出した日額の3分の1の額を参考に評価した事例があります。(厚生労働省FAQ・東京労働局資料より)
なお同じFAQで、非常勤の医師も宿日直許可の対象になることが明記されています。
許可を受けた宿直中に、通常の診療をしたら
宿日直許可を受けていても、宿直中に突発的な事故による応急患者の診療や入院、患者の死亡、出産への対応など、通常の勤務時間と同じような業務をすることがあります。これが「まれ」であり、常態としてほとんど労働がなく、夜間に十分な睡眠がとれるのであれば、許可を取り消す必要はないとされています。
ただし、その業務に従事した時間については、時間外労働の手続き(労働基準法第33条または第36条第1項)をとり、同法第37条の割増賃金を支払うよう取り扱うこととされています(基発0701第8号)。宿日直手当だけを払っていればよい、ということではありません。
宿直中の診療が「まれ」ではなく常態になっている場合は、そもそも宿日直許可の対象になりません。厚生労働省のFAQでも、許可後の人員の異動や業務内容の変更で実態が変わった場合は、勤務内容の見直しなどの対応が必要になるとしています。
実務で押さえておきたいこと
- 自院の宿日直許可が、どの診療科・職種・時間帯・業務を対象にしているか(許可は範囲を限って受けることもできる)
- 宿日直手当の額が、同種の労働者の1人1日平均額の3分の1以上になっているか
- 許可を受けた宿直中に通常の業務をした時間を記録し、割増賃金を支払える形になっているか
- 宿直・日直の回数が、許可の条件(原則は宿直週1回・日直月1回)に収まっているか
当直シフトナビでは、医師ごと・種別ごとの当直の回数を月単位で集計できます。宿日直手当を計算するときの元データとして使えます。種別ごとの拘束時間・休憩時間を登録すれば、時間外労働の時間も自動で集計されます。
宿直・日直の回数の数え方と例外についてはこちらの記事で詳しく解説しています。